C++ でI/Oデバイスの操作を考える

組み込みでもC++と言う事で、最近では、RXマイコンでC++0Xを使ってソフト開発をしていますが・・

ルネサスなどのサンプルでは、I/Oデバイスの操作は、C言語で使えるビットフィールドを多用しています。
サンプルに付属のハードウェアーデバイスを定義してあるヘッダー「iodefine_renesas.h」がその典型例です、しかしながら、規約では、16ビットや32ビットの定義は処理系依存であったと思います。
又、エンディアンが変わった場合も少なくと gcc では問題あります。
それなのに、このやり方が使われているのは大きな問題だと感じています。

ルネサスが試用版としてダウンロード出来るコンパイラでは問題無いようですが、gcc では問題となります。
※やった事は無いのですが、ルネサスのCコンパイラで boost が正しくコンパイルできるか不明ですし、C++11を使いたいし、IDEは嫌いだしで、積極的に使いたいとは思えません。
※時間が出来たら、RX用のLLVMをポートしたいです。
特に gcc では、最適化が施された場合に、32ビットでしかアクセス出来ないI/O空間に、バイトでアクセスするようなコードが出てくる場合もあります。
※これはRX用 gcc の問題なのかもしれません。

又、C++の強みを生かしたコーディングをしたいのもあります、今回RXマイコン用のコードを作る過程で、C++でI/Oデバイスを操作するライブラリーを実験、考えてみました。
自分のC++スキル以内の事しか出来ませんが、とりあえず、我慢できる程度の物が出来たので紹介します。

まず、どんな感じで書きたいか考えます。
RXマイコンに備わっているI/Oポートを例に考えてみます。

    device::PORT2::DDR.B3 = 1; // PORT23 output (/xCS)
    device::PORT2::DDR.B2 = 1; // PORT22 output (/xDCS/BSYNC)
    device::PORT4::DDR.B7 = 0; // PORT47 input (DREQ)
    device::PORT4::ICR.B7 = 1;
    device::PORT2::DR.B3 = 1; // xCS=H
    device::PORT2::DR.B2 = 1; // xDCS=H

とりあえず、こんな感じでしょうか?
※名前空間は「device」としています。

template <uint32_t base>
struct portx_t {
    typedef io8<base + 0x00> ddr_io;
    struct ddr_t : public ddr_io {
        using ddr_io::operator =;
        using ddr_io::operator ();
        using ddr_io::operator |=;
        using ddr_io::operator &=;

        bits_t<ddr_io, 0, 1>  B0;
        bits_t<ddr_io, 1, 1>  B1;
        bits_t<ddr_io, 2, 1>  B2;
        bits_t<ddr_io, 3, 1>  B3;
        bits_t<ddr_io, 4, 1>  B4;
        bits_t<ddr_io, 5, 1>  B5;
        bits_t<ddr_io, 6, 1>  B6;
        bits_t<ddr_io, 7, 1>  B7;
    };
    static ddr_t DDR;
};
typedef portx_t<0x0008c000> PORT0;
typedef portx_t<0x0008c001> PORT1;

オペレーターの定義として、「=」、「()」、「&=」、「|=」を定義してあります。

「=」オペレーターの戻り値をvoidとして値を返さないようにしてあります。
PORT0::DDR = 0xf0;
と代入は出来ますが・・・
uint8_t data = PORT0::DDR;
とは出来ません、代わりに、
uint8_t data = PORT0::DDR();
とする事で値を取得できます。
これには、幾つかの側面があって、I/Oに対する「読み出し」と「書き込み」は同じアドレスであっても全く別の操作だからです。
又、最適化によって起こる問題を回避できると考えています。
※又、「=」オペレーターを無効にする事により、リードオンリーのデバイスを扱えます。(書き込もうとするとコンパイルエラーになります)

さて、バイト操作が出来たので、ビット操作を考えてみます。
※ bits_t の定義がそれに辺り、アクセス開始ビットと、アクセスするビット幅を定義してあります。

template <class T, uint8_t pos, uint8_t len>
struct bits_t {
    static typename T::value_type get() {
        return (T::read() >> pos) & ((1 << len) - 1);
    }
    static void set(typename T::value_type v) {
        typename T::value_type m = ((1 << static_cast(len)) - 1) << pos;
        T::write((T::read() & ~m) | (v << pos));
    }

    void operator = (typename T::value_type v) { set(v); }
    typename T::value_type operator () () { return get(); }
};

テンプレートに渡すT型のクラスは、8ビット、16ビット、32ビットのアクセス幅により決定します。

    typedef io8<base + 0x00> ddr_io;
    bits_t<ddr_io, 0, 1> B0;

※上の例では、io8 クラスを使っています。

io8 はこんな感じです。

template <uint32_t adr>
struct io8 {
    typedef uint8_t value_type;
    static void write(uint8_t data) { wr8_(adr, data); }
    static uint8_t read() { return rd8_(adr); }void operator = (value_type data) const { write(data); }

    value_type operator () () const { return read(); }
    void operator |= (value_type data) const { write(read() | data); }
    void operator &= (value_type data) const { write(read() & data); }
};

実際にハードウェアー上のアドレスにアクセスするのは、以下です。

static inline void wr8_(uint32_t adr, uint8_t data) {
    *reinterpret_cast<volatile uint8_t*>(adr) = data;
}
static inline uint8_t rd8_(uint32_t adr) {
    return *reinterpret_cast<volatile uint8_t*>(adr);
}

まだ冗長な部分がありますが、とりあえずやりたい事は出来ています。

※完全なソースコードは、AKI-RX62 でMP3再生(VS1063a)を参照して下さい。

※参考文献:
C++テンプレートテクニック

追記、修正: 2013,7,21
operator は継承出来ないので、冗長となっていた部分、using 文で、シンプルに書ける事が判った為修正。
※using ってこんな感じで使えるのか・・
※RX のソースアーカイブは、別の作業(RSPIの割り込み化)をしているので、それが終わってから更新します。

追記、修正: 2013,7,25
コンパイルした場合にどのようなアセンブリコードが出てくるか検証しました。

int main(int argc, char** argv)
{
    // ICLK=96MHz, BCLK=48MHz, PCLK=48MHz SDCLK出力,BCLK出力
    device::SYSTEM::SCKCR = 0x00010100;
    device::SYSTEM::MSTPCRA.MSTPA15 = 0;  // B15 (CMT)のストップ状態解除
    device::SYSTEM::MSTPCRB.MSTPB31 = 0;  // B31 (SCI0)のストップ状態解除
    device::PORT3::DDR.B0 = 1;            // PORT3:B0 output
    device::PORT2::ICR.B1 = 1;            // PORT2:B1 input (RXD0)
}

-O2 で最適化した場合のアセンブリコードです。

fff80a64 <_main>:
fff80a64: fb ee 20 00 08         mov.l    #0x80020, r14
fff80a69: f8 ee 00 01 01         mov.l    #0x10100, [r14]
fff80a6e: fb 4e 10 00 08         mov.l    #0x80010, r4
fff80a73: ec 4e                  mov.l    [r4], r14
fff80a75: fb 3e 14 00 08         mov.l    #0x80014, r3
fff80a7a: 77 2e ff 7f ff         and      #0xffff7fff, r14
fff80a7f: e3 4e                  mov.l    r14, [r4]
fff80a81: ec 3e                  mov.l    [r3], r14
fff80a83: fb 4e 03 c0 08         mov.l    #0x8c003, r4
fff80a88: 74 2e ff ff ff 7f      and      #0x7fffffff, r14
fff80a8e: e3 3e                  mov.l    r14, [r3]
fff80a90: cc 43                  mov.b    [r4], r3
fff80a92: fb ee 62 c0 08         mov.l    #0x8c062, r14
fff80a97: 65 13                  or       #1, r3
fff80a99: c3 43                  mov.b    r3, [r4]
fff80a9b: cc e4                  mov.b    [r14], r4
fff80a9d: 66 01                  mov.l    #0, r1
fff80a9f: 65 24                  or       #2, r4
fff80aa1: c3 e4                  mov.b    r4, [r14]
fff80aa3: 02                     rts

及第点でしょうか・・

AKI-RX62 でMP3再生(VS1063a)

I2Cの割り込み化をしなければならないが・・、とりあえず、置いといてー

SDカードが読めるようになったので、MP3の再生を行いたい~

オーディオのコーディックICと言えば、VSxxxが思い浮かぶ、専用DSPと、デコーダー、エンコーダーのプログラムを内臓して、低消費電力で、非常に多くのフォーマットに対応している。

最近、秋月で、VS1063aが発売になった、結構最新のデバイスで、新規に新しいフォーマットに対応して、内部も、細かい所が色々とアップデートされている。
800円とちょっと高いが、I2S出力も可能なので(VS1053も可能)、今回は、このデバイスを使ってみたい。
RXマイコン100MHzでは、ソフトウェアーで、MP3のデコードは可能なようだけれど、処理負荷は大きく、他に、何も出来なくなってしまうと思うので、専用ICを使った、他にグラフィックスもやりたいし・・

そろそろ、端子をどのように使うか、戦略を立てないと駄目なようだー
SPIは、SDカードで1チャンネル、VS1063で1チャンネル占有する感じで、他にSPIのデバイスがあった場合は、考えないといけない・・
※SDカードとVS1063はシェア出来るのかもしれないが、動いてから、別途考える事にするとして・・・

他の重要なデバイスとしてグラフィックスコントローラーがある、これは、メモリーマップにアサインする予定なので、D0~D15、Ax、/CS、/RD、/WRなどを開ける必要があり、それらのポートは使わないで開けてある。

ピンアサインはとりあえずこんな感じだ・・
RX側                VS1063a側
(P26)MOSIB-A  ---> SI
(P27)RSPCKB-A ---> SCLK
(P30)MISOB-A  <--- SO
(P23)         ---> /xCS
(P22)         ---- /xDCS・BSYNC
(P47)IRQ15-B  <--- DREQ

※他の接続は、参考回路を参照の事、VS1063aは、コアの電源として、1.8Vが必要なので、レギュレーターを別途使用する。
※クリスタルは、12~13MHzとなっていて、内部のPLLで、必要なクロックを得る事が出来るが、補正が必要無い、12.288MHzを使う事とした。

VS1063aは、0.5mmピッチの48ピン、LQFP-48フラットパッケージで、ちょっとだけハンダ付けが大変だ、フラックスと吸い取り線があれば、まぁ大抵大丈夫だが、変換基板にICを位置合わせするのが大変で、ここで失敗すると、取り返しが付かないので、慎重に作業する、レンズで拡大しながら、正確に位置を決め、二箇所程度にハンダを流して仮止めしてから、全部のピンをハンダ付けする、ショートしたら、吸い取り線で余分なハンダを吸い取る、出来たら全体を拡大して、ブリッジや、ハンダが足りない部分を慎重に見極めて、修正する。

IMG_0457ss

VS1063aは、ピン数は多いけど、電源端子が多い、試作とは言え、AGND、DGND、3種類の電源(I/O、コア、アナログ)とパスコンを慎重に接続する。
※チップ部品が、場所をとらず、2.54mmの間隔に丁度はまると楽チンだww。
※I2Sを実験する予定なので、それらの端子は、個々にプルダウン抵抗を設けておいた。

IMG_0458ss

端子を全部接続したら、早速テスト用ソフトのコーディング、SPIを使うので、前から懸案となっていた、デバイス関係を操作するC++ライブラリーの試作と実験を行った。
前にも書いたけど、C言語で、構造体にビットフィールドを宣言して、それによってデバイスをアクセスする方法は邪道、確か、言語規約的には、32ビット以外の挙動は保障されていなかったハズで、8や16ビットのアクセスによる動作は、処理系に依存するハズだ、それに、色々、不都合もある。
・エンディアンの違いを上手く吸収出来ない。
・シリアルのように複数チャネルあるデバイスでは、ドライバーを1チャネルだけ実装して、それを別チャネルでも等しく利用するのが難しい。
・リードオンリーのデバイスに書き込みを行えてしまう。
・最適化によっては、正しく無いコードが出来てしまう。(※これは rx-gcc のバグなのかもしれない)

「C++使ってるのだから、C++風に書きたい」と言うのが大きい。

で、色々考えて、C++の少ないスキルで、テンプレートを使って、作ってみたー、記述が冗長になっている部分はあるが、おおむね我慢できる範囲でまとまった。
※この話は、今度、別のブログで詳しく紹介したい、ソースコードがあるので、興味ある人は見てください。「rx62x_rspi.hpp」とかがそれです。

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さて、RSPI の操作をC++で出来るように記述して、とりあえずポーリングでVS1063aと通信する機能を実装して、VS1063a用ドライバーを作成した。
VSシリーズの解説では、放課後の電子工作さんが大変に詳しく、参考にさせてもらった。
通信が出来て、レジスターへの書き込み、読み出しが出来るようになったので、「テストモードの正弦波の発生」用ストリームを流してみたが、一向に正弦波を出力しない?
ハードを色々調べても、まずい部分は見つからず、どうしたもんかなぁーと悩むこと半日・・・、SDカードのテストもあるし、試しにMP3ファイルを流してみた、普通に鳴るではないか・・・

最終的にはI2S出力にD/Aコンバーターを付けて鳴らしたいので、あまり期待して無かったが、ヘッドホン出力も、それ程悪い訳でもなく、普通に聞ける~

まだ、ソフトが荒削りな部分が多く、参考程度に考えてもらいたいが、一応ソースコードを公開する。

ターミナルから、play xxx.mp3 とやれば再生する、多分、Ogg Vorbis、AAC も再生できるハズ。
それにしても、VS1063aは極めて簡単で、コンビニエンスなデバイスだ。