C++によるRXマイコンCANドライバー(その1)

RX マイコン内蔵 CAN ドライバーの実装

RXマイコンには、CAN を内蔵しているデバイスがある。

RX マイコンの CAN ペリフェラルは機能が豊富で、CAN 全体の構成も複雑なので、柔軟な「管理」を考えるとインターフェースが難しい・・

「送信」も、「受信」も、色々なバリエーションが考えられるので、どのような構成が「正解」なのか色々考える必要がある。
※機能が豊富過ぎると、どのような構成にすると、メリットが大きいのか考える必要があり、実験や調査に時間がかかりそうだ・・

とりあえず、どのような構成にするのがベストなのかイマイチ判らないのと、CAN についての知識が不足しているので、ハードウェアー機能を網羅するような対話形式のインターフェースを作り、実験しながら考えていく事にする。
※もう十年以上前に、仕事で、Autosar 準拠の機器で Linux ドライバーを実装した事があるが、その頃とは状況が異なっている・・
Autosar は上位の層で、自分が担当したのは、下位の層、ハードウェアーを直接操作して、CAN デバイスを操作するドライバーだった、Linux ドライバーは初めてで、それなりに苦労した事を覚えている・・・

  • CAN の通信 IC は Philips 製で、それが、PCI を介して接続されていたと思う。
  • この時は、単純な機能しか無かったので、ソフトで色々な機能をサポートしていた、ドライバーはシンプルなものだった。

RX24T は、初期のバージョンでは、CAN が無かったが、新しいバージョンでは、CAN が追加された、ただ、今までの CAN とは異なる構成になっている。
その為、同じドライバーでは、面倒を見れないと思える、これもどうするのが良いのか悩む要因の一つだ・・・
※RSCAN と呼ばれるペリフェラルに置き換わっている。
※RX66Tは、従来通りの CAN となっている。


別の問題として、CAN 関連レジスタにアクセスするテンプレートが一筋縄ではいかない構成なので、それもスマートに解決する必要がある。
※メールボックスレジスタ(32個ある)などにアクセスするテンプレートが思うように作れなかったので、中途な状態になっていた、最初は、それの改善方法を考える事から始める。

レジスタクラスを改造する

CAN には、「メールボックス」が32個あり、同等なアクセスを提供している。

しかし、レジスタ定義テンプレートクラスは、単独、1個のレジスタを想定して設計されている為、どのようにアクセスするか、悩んでいた。

テンプレートクラスの場合、アクセスするアドレスは固定となっている為、さらにインデックスを加えてアクセスするようには出来ていない。
そこで、「インデックス」付きアクセスを実現する為、最終的にレジスタメモリにアクセスするクラス「rw8_t」とは別クラスを追加した。

    //+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++//
    /*!
        @brief  Read/Write 8 bits アクセス・テンプレート、インデックス付
        @param[in]  adr アドレス
    */
    //+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++//
    template <address_type adr>
    struct rw8_index_t {
        typedef uint8_t value_type;

        static uint32_t index;

        //-----------------------------------------------------------------//
        /*!
            @brief アドレスの取得
            @return アドレス
        */
        //-----------------------------------------------------------------//
        static address_type address() noexcept { return adr + index; }

        //-----------------------------------------------------------------//
        /*!
            @brief  書き込み
            @param[in]  data    書き込み値
        */
        //-----------------------------------------------------------------//
        static void write(value_type data) noexcept {
            wr8_(adr + index, data);
        }

        //-----------------------------------------------------------------//
        /*!
            @brief 読み出し
            @return 読み出し値
        */
        //-----------------------------------------------------------------//
        static value_type read() noexcept {
            return rd8_(adr + index);
        }

...

    };

改造は簡単な物で、変数として「index」を追加して、事前に「index」を設定してからアクセスする事で、基底アドレス+index にアクセス出来る。
注意しなければならないのは、「adr」が同じテンプレートの場合、static で宣言されている「index」は共有されてしまうが、都合の良い事に、そのような場合が起こるのは「稀」だと思える。

メールボックス制御レジスタクラスは、元々、MCTL0 ~ MCTL31 が定義されている。
しかし、そのインスタンスでアクセスするのでは、冗長になる。
そこで、上記の「rw8_index_t」クラスを使い、index 分のアクセスを行えるように改修した。

さらに、「operator []」でアクセスできるように、「[]」をオーバーロードした。
operator の「戻り」は参照を使って、自分を戻しているので、インデックス付きアクセスが出来る。

    //-----------------------------------------------------------------//
    /*!
        @brief  メッセージ制御レジスタ j( MCTLj )( j = 0 ~ 31 )
        @param[in]  ofs オフセット
    */
    //-----------------------------------------------------------------//
    template <uint32_t ofs>
    struct mctl_t : public rw8_index_t<ofs> {
        typedef rw8_index_t<ofs> io_;
        using io_::operator =;
        using io_::operator ();
        using io_::operator |=;
        using io_::operator &=;

        void set_index(uint32_t j) { if(j < 32) { io_::index = j; } }

        bit_rw_t <io_, bitpos::B0>  SENTDATA;  // Send mode
        bit_rw_t <io_, bitpos::B0>  NEWDATA;   // Recv mode
        bit_rw_t <io_, bitpos::B1>  TRMACTIVE; // Send mode
        bit_rw_t <io_, bitpos::B1>  INVALDATA; // Recv mode
        bit_rw_t <io_, bitpos::B2>  TRMABT;    // Send mode
        bit_rw_t <io_, bitpos::B2>  TMSGLOST;  // Recv mode

        bit_rw_t <io_, bitpos::B4>  ONESHOT;

        bit_rw_t <io_, bitpos::B6>  RECREQ;
        bit_rw_t <io_, bitpos::B7>  TRMREQ;

        mctl_t& operator [] (uint32_t idx)
        {
            set_index(idx);
            return *this;
        }
    };
    typedef mctl_t<base + 0x0620> MCTL_;
    static  MCTL_ MCTL;

この改修で、以下のように自然にアクセスする事が出来るようになった。

    CAN::MCTL[idx] = CAN::MCTL.TRMREQ.b(1);

    CAN::MCTL[idx].TRMREQ = 1;

RX64M で送信、受信実験

以前に CAN バス・トランシーバー VP230 が乗った基板を購入した(中華製)このトランシーバーは 3.3V で動作するので、RX64M で動かすのには都合が良い、ターミネーター抵抗(120 オーム)も付いている。

ドライバーを作りこむのに、実験環境を作らなければならないが、送信側、受信側を別々にすると、二台のボードで実験する事になり、デバッグの手順が複雑になる。

RX64M は、CAN を3チャネル持っているので、CAN0、CAN1 を使って、相互に接続し、1台で、送信と受信が出来るような構成にした。

ボーレートの設定

RX マイコンの CAN はボーレートの設定が多少複雑だ、ドライバークラスは、複雑な設定を隠蔽して、簡単な設定を自動で行えるようにしなければメリットが薄い。
また、間違った設定を構造的に出来なくする事も重要だ。

CAN は、1ビットを送受信する過程で、色々な処理をするので、このような複雑なものになっているようだ。

RX マイコンの CAN では、1 ビットを「TQ」と呼ばれる値(ビットタイム)で分割し、これが、8~25になるようにボーレートを設定する。

TQ は、SS、TSEG1、TSEG2、を合計した物で、以下のような関係になっている。

SS = 1 Tq
TSEG1 = 4 Tq ~ 16 Tq
TSEG2 = 2 Tq ~ 8 Tq
SJW = 1 Tq ~ 4 Tq
TSEG1 > TSEG2 ≧ SJW

まず、「余り」が0になるような TQ 値を求める。
※そうしないと、割り切れない場合、微妙な通信速度になり、標準的な機器と通信出来ない。

    // 通信速度に対する、TQ 値 8 to 25 で適切な値を選ぶ
    // より大きい値で適合した値を選択
    uint32_t tq = 25;
    while(1) {
        if((get_can_clock_() % (static_cast<uint32_t>(speed) * tq)) == 0) {
            break;
        }
        tq--;
        if(tq < 8) {  // 割り切れない場合エラーとする
            format("(1)BRP divider indivisible...\n");
            return false;
        }
    }

-「get_canclock()」は、PCLKB(60MHz)となる。

  • 「speed」は、enum class で定義してあり、キャストして整数としている。
    enum class SPEED {
        _50K  =    50'000,  ///<  50 Kbps(標準ではない)
        _100K =   100'000,  ///< 100 Kbps(標準ではない)
        _125K =   125'000,  ///< 125 Kbps
        _250K =   250'000,  ///< 250 Kbps
        _500K =   500'000,  ///< 500 Kbps
        _750K =   750'000,  ///< 750 Kbps(標準ではない)
        _1M   = 1'000'000   ///< 1 Mbps
    };

次に、TSEG1、TSEG2 の配分を決める。

    uint32_t tseg1 = 16;
    uint32_t tseg2 = 8;
    uint32_t sjw = 1;  // とりあえず固定

    while(1) {
        if(tq == (1 + tseg1 + tseg2)) break;

        tseg1--;
        if(tq == (1 + tseg1 + tseg2)) break;
        else if(tseg1 < 4) {
            format("(3)TSEG1 value indivisible...\n");
            return false;
        }

        tseg1--;
        if(tq == (1 + tseg1 + tseg2)) break;
        else if(tseg1 < 4) {
            format("(4)TSEG1 value indivisible...\n");
            return false;
        }

        tseg2--;
        if(tq == (1 + tseg1 + tseg2)) break;
        else if(tseg2 < 2) {
            format("(5)TSEG2 value indivisible...\n");
            return false;
        }
    }

RX64M PCLKB=60MHz の場合、1Mbps に設定すると、以下のような値となる。

CAN0: SPEED: 1000000 [bps], BRP: 3, TSEG1: 12, TSEG2: 7

※「SJW」はこの変数に関する説明が無かったので、とりあえず「1」にしているが、出来るだけ大きい方が良いのかもしれない・・

メールボックスをどのように割り振るか?

RX マイコンの CAN は、メールボックスを中心とした構成になっている。
メールボックスは32個あり、どのように割り振るのか、ケースバイケースとなると思うが、「受信」動作はかなり厄介だ・・

  • 特定の ID だけ受信する(オペレーションモードにする前に決めなければならない)
  • 全ての ID を受信して、ソフトで振り分ける。
  • 上記二つの混合

「特定 ID」の受信では、初期化時に ID が決まっていなければならないが、ハードウェアーが自動で行うので、ソフトの負荷が小さくなる。
※その ID の数分、メールボックスを消費する。
「ソフト処理」では、どんな構成でも可能だが、その分、CPU 負荷が大きくなる。
CAN の場合、1つのパケットは 100 マイクロ秒くらいなので、120MHz の RX64M でも、流れるパケットによっては、処理がオーバーフローするかもしれない。

対話式インターフェース

CAN レジスタの説明を読んだ理解と、実際の動作が異なる場合があると思うので(CAN の理解不足などから)対話式インターフェースを実装した。

最初のステップとして、メールボックス「ありき」で対話式インターフェースを用意した。
※最終的には、メールボックスをアプリケーションユーザーに意識させるのは良くないと思うので実験用だけ。

Start CAN sample for 'RX64M' 120[MHz]
CAN0: SPEED: 1000000 [bps], BRP: 3, TSEG1: 12, TSEG2: 7
CAN1: SPEED: 1000000 [bps], BRP: 3, TSEG1: 12, TSEG2: 7
# help
    ch CH-no               set current CAN channel (CH-no: 0, 1)
    id number              set current ID number
    ext                    set ext-id mode
    std                    set std-id mode
    data MB-no [byte ...]  set frame data (MB-no: 0 to 31)
    list MB-no             list frame (MB-no: 0 to 31)
    reset MB-no            reset MB (MB-no: 0 to 31)
    send MB-no             send frame (MB-no: 0 to 31)
    recv MB-no             recv frame (MB-no: 0 to 31)
    stat MB-no             stat frame (MB-no: 0 to 31)
    state                  report CAN state
    help                   command list (this)

簡単な通信を行い、送信、受信動作を確認。

# ch 1
# id 0x754
# data 0 0
# recv 0
# stat 0
MCTL: 0x40 (0b01000000)
# ch 0
# data 1 0x75 0x46 0xac 0xf8 0x40
# send 1
# ch 1
# stat 0
MCTL: 0x41 (0b01000001)
# list 0
ID: std 0x754 (1876)
DATA(5): 75 46 AC F8 40
TS: 31995
#

メールボックスの扱い方がある程度分かったと思う・・・

今回はここまで、次は、マネージメントを内部で自動で行い、扱いやすくする方法や構造を考える。
また、割り込みも使う必要があるので、その辺りを中心に実装する。